【映画】サウルの息子

新宿シネマカリテ。
70点。

阿鼻叫喚の収容所で死体処理班の1人として働くユダヤ人サウルが主人公。
彼の2日間にわたる悪戦苦闘がストーリの骨格である。

ある日男の子がガス室で生き残る。
しかし、すぐに医師の手により殺される。
サウルはその男の子をユダヤ教の教えに従い
ラビの祈祷のもと焼却せずに埋葬してやろうと
固く決意する。
遺体を解剖室から持ち帰るため悪戦苦闘し、
貨物列車で送られてくるユダヤ人の中からラビを
見つけ出すため悪戦苦闘する。

映画は彼の行動を淡々と捉える。
内面描写は一切ない。
感情移入させるフレームがどこにも挿入されていない。
乾いた映像で彼の無表情な顔を映し出すだけである。

次の日、死体処理班たちの暴動が起き、それに紛れて
遺体を担いでサウルも逃げる。
ラビも逃げるが祈祷よりも命が惜しい。
河を渡る途中でサウルは遺体から手を離してしまい、
遺体を失くしてしまう。
河を渡った先にある小屋で、逃げ延びた数人が休んでいると
入り口から男の子が怖々と中を覗き込む。
それを見たサウルの顔に初めて笑顔が宿る。

終止無表情であったサウルが最後に見せた笑顔。
遺体の男の子は河に流してしまったけれど
あたかも彼が生き返ったかのような子供を見て示した表情。
地獄を日常とする人間の中にも人としての「よろこび」が
残っていたのだ。
小屋へ向かう親衛隊。銃声とともに幕は閉じる。

新宿駅の雑踏の中を歩いていると、群衆が収容所へ送られてきた人間に見え
駅員がナチス親衛隊に見えてしまった。
後を引く映画である。