【読書】ジェノサイド

「ジェノサイド」 高野和明 角川書店
自虐史観で書かれた悪質な小説である。
1. 関東大震災のとき日本人により数千人の朝鮮人が虐殺されたと、主人公が語る場面がある。「朝鮮人が放火をし、井戸に毒を入れている」という流言が原因であると主人公は解説する。これは著者の歴史観なのであろうが、公平ではない。関東大震災に関しては、工藤美代子氏による一次資料を基にした詳細な報告がある。

関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実

関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実

日韓併合以後、国内では朝鮮人によるテロ事件が多発していたこと、彼らの最終目標が皇太子暗殺であったこと、震災直後の朝鮮人暴動はデマではなく実際にあったことなどが当時の新聞や外国の文書などに明記されている。虐殺された朝鮮人が数千人という主張も、工藤氏の著作では、明確な根拠を基に否定されている。
2. 残虐な殺戮シーンを解説する場面で「南京大虐殺の際に、日本人が中国人を相手にやった手口だ」と、登場人物の傭兵に語らせている。一次資料を丁寧に読み解けば、南京大虐殺など存在しなかったことは明らかである。戦後、中国共産党朝日新聞によって広められたプロパガンダであることが、多くの書籍で指摘されている。なお、著者が描く残虐な殺戮シーンは、昭和3年、国民革命軍が行った日本人居留民の殺害の様子と似ていることを指摘しておきたい。
3. 物語の中で、米国がサイバー攻撃を受ける場面がある。攻撃元を調べると中国の人民解放軍であることが判明する。しかし、物語の最後で、人民解放軍は踏み台にされただけであり、犯人は別にいることが分る。そして米国の高官にこう語らせている。「我々は中国の脅威を過大視していました。本日の国家安全保障会議で、対中政策の見直しについて議論したほうがよさそうです」。著者の国防・安全保障観を疑わざるを得ない台詞である。
ジェノサイド

ジェノサイド

大虐殺を題材として取り入れたいのであれば、ナチスドイツ、中国共産党による文化大革命大東亜戦争時の米国による原爆投下、スターリン時代の大粛清などを扱うべきであろう。ストーリー展開自体は大変面白いのだが、著者の自虐史観が残念である。